キャプテンを欠きつつも掴んだ日本一


2021年3月6日に開催された、eBASEBALLプロリーグ「SMBCe日本シリーズ」。福岡ソフトバンクホークスと横浜DeNAベイスターズがeクライマックスシリーズを勝ち抜いたことで、ペナントレース1位同士の頂上決戦となった。

開催延期を経て満を持して開催……と思われたが、予想外の事態がホークス陣営を襲う。絶対的エースとしてチームを牽引した加賀谷颯太選手が体調不良のため欠場。キャプテンを欠いた状態で決戦に臨むことになった。

2018シーズンにe日本シリーズを経験している河合祐哉選手と大茂英寿選手を擁することからも、ベイスターズ圧倒的有利かと思われた。

試合経過は動画アーカイブをご確認いただくとして、ここでは省略。

蓋を開けてみれば、得点力と勝負強さが光り、ホークスの2連勝。eBASEBALL3シーズン目にして初となる、リアルプロ野球とのダブル日本一の栄冠に輝いた。

キャプテンを欠き、残されたメンバーが奮起して頂上決戦を制する。少年スポーツ漫画のような劇的な展開で、eBASEBALL2020シーズンは幕を下ろした。

プレイヤーの個性が失われた?

ここからは、eBASEBALL2020シーズンを総括していく。とはいえ、今シーズンの総括は非常に難しい。

辻晴選手(横浜DeNAベイスターズ代表)の大活躍から世代交代が起きたと錯覚しがちだが、プロリーグランキング上位を見ると古参プレイヤーも名を連ねており、劇的な世代交代は感じさせない。

また過去2シーズンは、2018シーズンの緒方寛海選手(元埼玉西武ライオンズ代表)、2019シーズンの指宿聖也選手(オリックス・バファローズ代表)と舘野弘樹選手(読売ジャイアンツ代表)など象徴的な選手がすぐに浮かぶが、今シーズンは意見が割れそうだ。

e日本シリーズの欠場がなければ、加賀谷選手が文句なしで推されていただろう。あるいは、ベイスターズが日本一を取っていれば辻選手か。結果的にMVPは、e日本シリーズとシーズン中の活躍が評価され、大上拓海選手(福岡ソフトバンクホークス代表)が選出されている。

このように、今シーズンは「これ」という事柄が挙げづらい。言葉を選ばないでいえば、印象が薄いのだ。その原因は、プレイヤーの個性が埋没したことにあると思う。

筆者は今シーズン、通奏低音のように「ゲームっぽくなった」と感じていた。その原因がわかったのは、eクライマックスシリーズで舘野選手の活躍からだ。

プレイが最適解で行われている。

対戦ゲームには「環境」と呼ばれるものがあり、システムの都合から勝ち筋が固定され、多かれ少なかれプレイヤーのスタイルが均一化する傾向がある。定石といってもいい。

今シーズンは「強振の弱体化とミート打ちの強化」というシステム変更によって、「きわどいコースはミート打ち、甘い球を強振」というプレイが基本となった。

言葉に表すとリアルの野球を再現しているように感じるが、その実この最適解をどれだけ実行できるかだけが競われるようになったのではないか。

ここで「強振100%」を貫く舘野選手の話に戻そう。彼はシーズン中、プレイスタイルをメタられ(対策され)苦戦した。強振だけのプレイスタイルでは、システム的にどうしても超えられない壁ができてしまったためだ。

実際、ミート打ちを解禁したeクライマックスシリーズでは、一気にシーズン中の記録を上回る本塁打を放つ。自身のプレイスタイルを捨てて最適解のプレイをすれば、彼は今シーズンも圧倒的な成績を残せたことを証明した。

もちろん、プロ野球においても加齢やケガなどから自身のプレイスタイルを捨てる場面は訪れる。それを受け入れて乗り越えるのがプロというものだろう。eスポーツもタイトルによっては目まぐるしく環境が移り変わり、これに適応できることがプロの条件ともいわれる。

しかし本来、プロ野球はその裾野の広さから、一芸に秀でた選手や独特の個性を持った選手が活躍するという魅力がある。フルスイングを貫くバッティングやバントで世界一となる選手、代走のスペシャリスト……一目でその選手とわかる個性がプロ野球ファンの目を惹いて離さない。

その点で残念ながら今シーズンのeBASEBALLは、高い技術を突き詰めた結果として「この選手はこのプレイが魅力(特徴)」といった独自のスタイルが薄れたように感じる。

プレイヤーレベルではシフトの敷き方や配球など個性が認められるのかもしれないが、視聴者にそのリテラシーを求めるのは難しい。興業である以上、ファンに伝わらなければ意味がないのだ。

他のeスポーツでも、プレイヤーのほとんどが同じキャラクターやデッキを使っていたら自然と盛り下がる。今後のeBASEBALLには、多様性が感じられる試合を実現して欲しい。

来シーズンに求められる変革

e日本シリーズ後の閉会セレモニーでは来シーズンの開催宣言が恒例となっていたが、今回は明言が避けられた。

今後のeBASEBALL継続に不可欠なのは、「eBASEBALLといえばこの人」と呼べるスタープレイヤーの輩出と、世間の関心をひく話題性だろう。

そこで記事の締めくくりとして、明るくeBASEBALLの発展可能性を書き連ねていきたい。

まず期待したいのが、女性プレイヤーの台頭だ。NPB12球団の代表選手として女性が選ばれるというのは、世間的にも話題になりそうなトピック。「男性と女性が対等に争える野球」は、eBASEBALLの目指すべき理想形のひとつだろう。

また、NPB人気の高い台湾とのアジアシリーズもなんていうのも面白い。実際にオンラインでは台湾のプレイヤーとマッチングすることもあるそうだ。印象論で恐縮だが、韓国やアメリカといったeスポーツが盛んな国は野球も盛んだ。国内で頭打ちなのであれば、ワールドワイドな発展を期待したい。

他にも、ストリーマーや他タイトルのeスポーツプロ選手を取り込むなどの貪欲さも求められてくるだろう。

過去に筆者は、2018シーズン終了後に当時ZOZOが新球団創設を断念したことを受けて「eBASEBALLで新球団を創設すればいい」といったことを書き連ねた。実際、それくらい世間に響きそうなインパクトと、eBASEBALLならではの魅力が求められるのではないか。

はっきりと言ってしまえば、再生回数はうなぎ登り、地上波のeスポーツ番組でも引く手数多という状態なら来シーズンの開催も明言されていたはずだ。
今後もeBASEBALLが存続するには、独自の魅力を構築するための変革が求められるだろう。