緊急事態宣言発令に伴う延期を経て、2月26日、27日に実施されたeBASEBALL eクライマックスシリーズ。セ・リーグは横浜DeNAベイスターズ、パ・リーグは福岡ソフトバンクホークスがそれぞれe日本シリーズへの切符を掴んだ。

試合についての詳細は、アーカイブを見てもらうことが一番だ。ここでは、e日本シリーズ(3月6日開催)を楽しむうえでも役立つポイントと、eクライマックスシリーズから感じたプレイヤーの負担の軽視について書き連ねていく。

ポストシーズンの明暗を分けた「試合への入り方」

eBASEBALLのポストシーズンは、9イニング制で3イニング毎にプレイヤーが交代するという変則的なルールで実施される。

このルールは過去に実施されていたパワプロの大会のなかでも例はなく、eBASEBALL発足以降に採用されたものであり歴史は浅い。プレイヤーにとっても練習を行いにくいルールであり、プロのなかでもまだノウハウは蓄積されていないといえるだろう。

昨シーズンまでの取材では、プレイヤーたちはポストシーズンのルールに対して、口を揃えて以下のような感想を語っていた。

  • 3イニングでは調子が上がる前に終わってしまう
  • 2番手、3番手は試合に入るのが難しい(1番手はアップから試合に入る流れはシーズン中と変わらないため、さほど違和感はないそう)
  • とくにポストシーズンを初めて経験する場合、「ナイスピッチを出せない」「スイングができない(ボールを見送ってしまう)」など、なかなか試合に入れないこともある。

その点、経験値の面から「ポストシーズン有利」と注目されていたのが、3年連続eクライマックスシリーズ進出を果たしているジャイアンツだ。

実際、今シリーズのジャイアンツの試合運びを振り返ってみると、経験値の差が如実に表れている。特筆すべき点として「初回(1回・4回・7回)の得点率」が非常に高いことが挙げられる。

注:プレイヤーはそれぞれ1〜3回、4〜6回、7〜9回を担当するため、1、4、7回が各プレイヤーにとっての「初回」となる。

【1回・4回・7回での得点回数】
ジャイアンツ 15回中8回
ベイスターズ 9回中3回
ホークス 9回中3回
バファローズ 15回中3回
タイガース 6回中0回
ライオンズ 6回中0回
※ファーストステージ、ファイナルステージの合計

初回での得点回数が勝利につながりやすいことが見て取れると思う。初回から得点できるのはしっかりと試合に入れている証拠であり、流れを引き寄せることにつながる。

短期決戦は往々にして、流れを掴んだほうが勢いそのままに勝利を掴む。プレイヤーのあいだでは「ポストシーズンのジャイアンツはガチ」が共通認識となっているが、その秘密はここにあるのではないだろうか。

ジャイアンツはファイナルステージでベイスターズに破れたが、やはり舘野(てぃーの)選手の体調不良による欠場は大きかったと思われる。

舘野選手は4回の出場機会中、3回も初回での得点を記録している。彼の欠場さえなければ、e日本シリーズ進出チームは異なっていたかもしれない。実際、今シリーズで神がかった活躍を見せたホークスの加賀谷(ケーバック)選手も、3回の出場機会中すべてで初回から得点を奪っている。

e日本シリーズを観戦する際は、「初回の得点」にも注目して試合の趨勢を見守ってほしい。

「ゲームならいくらでもできる」という幻想

今回のeクライマックスシリーズにおいて、舘野選手の体調不良による欠場は見逃せないトピックだ。

欠場の原因は間違いなく、一日で最大6試合を戦う可能性があったルールにある。

昨シーズンは「ファーストステージとファイナルステージ」で日程を分けていたので、ダブルヘッダーで戦うことはなかった。しかし、今シーズンは「セ・リーグとパ・リーグ」で日程を分けたため、選手に過度な負担を強いる結果となった。

おそらく感染症対策の観点から、4チームが集まる日程を2日続ける(ステージによる分割)よりも、3チームが集まる日程を2日続ける(セ・パによる分割)を選んだということだろう。

正確な知見が定まっていない現状、この是非について論じることはしない。ただ、結果的に選手へ過度の負担を強いるかたちとなったのは残念で仕方がない。

筆者の肌感覚で恐縮だが、こうした日程の組み方からは「ゲームならいくらでもできる」という幻想が透けて見える。

近年のeスポーツの盛り上がりを受けて、医療従事者やスポーツトレーナーなども「eスポーツの身体的負担」に着目し始めている。なかでも「長時間同じ姿勢を取り続けること」は、体に相当の負荷を与えるようだ。

同じ姿勢を保つことで筋肉が凝り固まり、反応の遅れや集中力の低下などが生じ、パフォーマンスは明らかに低下する。プロレベルでの争いになれば、それは致命的な差に直結する。

日常生活のなかでも「デスクワークなのに体が疲れきっている」「長い映画を観たあとはくたびれる」といった体験をしたことがあるはずだ。集中して座り続けることは、体に負担がかかることなのだ。

この点は拙稿の国内を代表するスポーツトレーナー牧野講平氏にお話を伺った際にも論じられているので、eスポーツ関係者ならびにプロを目指す方にはぜひご一読いただきたい。

横浜F・マリノスあぐのむ選手 トレーニング密着取材 前編

また、長時間のプレイは視機能への影響も見逃せない。普段のまばたきの回数は1分間に約20回といわれているが、ゲームプレイ時は約5回ほどに激減するという調査がある。
参考:佐藤直樹ほか「VDT作業とドライアイの関係」

1フレーム(60分の1秒)を争うeスポーツにおいては、さらにまばたきの回数が減っていてもおかしくない。ましてeスポーツの大会ともなれば照明にもさらされるので、目は極度の乾燥状態に陥る。視機能への負担は相当のものだろう。

「クライマックスシリーズ」の仕組み上、下位チームの身体的負担も上位チームのアドバンテージといえばそれまでだ。

しかし、セ・パともにファイナルステージの戦績がイーブンだったことを考えると、どうしても可能性について思いを巡らせてしまう。

昨シーズンのように、ステージごとに日程を分けていれば。海外のeスポーツチームのように、体のケアを行うトレーナーが現地にいれば。

一方のみに身体的負担がかかった状態で戦うのは、果たして公平といえるだろうか。この点は、来シーズン以降もしっかりと議論を重ねてほしいところだ。

試合アーカイブ:パワプロ・プロスピ公式チャンネル