eBASEBALL史上最も静かな開幕戦

「eBASEBALL プロリーグ」2020シーズンの開幕戦は、寂しさを感じるほど静かに始まった。eBASEBALLの開幕といえば、プロ野球OBや球団マスコットが集まり、豪華なセットと特効で彩られるイベントだ。

それが、昨今のコロナ禍の影響もあり、今シーズンは開会式すらなし。選手紹介もそこそこに、横浜DeNAベイスターズ対東京ヤクルトスワローズの試合が始まった。

専用のヘッドセットでチーム内のコミュニケーションがとれるようになった今シーズンは、ヘッドセットを通じた試合中のプロプレイヤーたちの声や会話が積極的に拾われる。自身を鼓舞する者、チームメイトへの確認を怠らない者、それぞれ特徴的なスタイルが見て取れた。

試合中もソーシャルディスタンスを守り、チーム内でも距離が保たれている。これまでの「eBASEBALL プロリーグ」では、プレイヤーの後ろにチームメイトがつき盛り立てていた。それは野球の応援というよりもコーナーに戻ったボクサーを叱咤するセコンドのようで、チームの一体感を強く感じさせる光景だった。

しかし、今シーズンはそれが許されない。プレイヤーは孤独にディスプレイを見つめる。そんな環境のなかでもプレイヤーたちはベストを尽くし、史上最も静かな開幕戦を熱く盛り上げてくれた。

その模様はここで言葉を紡ぐより、実際の映像を見たほうが早いだろう。

ここからは、筆者が独断と偏見で一試合にフォーカスをあて、より試合を楽しめるよう掘り下げいく。

変わるものと変わらないもの〜eペナントレース開幕戦「読売ジャイアンツ対広島東洋カープ」 第3試合

毎シーズン選手の入れ替わりが激しい「eBASEBALL プロリーグ」にあって、高川健選手(巨人)と倉前俊英選手(広島)の対戦は2018シーズン以来二度目となる。

試合は、倉前選手が初回から犠牲フライで先制。2回にも二塁打からのライト前ヒットで追加点を上げ、流れを掴んだ。

しかし3回裏、高川健選手は二塁打と四球、レフト前ヒットで満塁とする。お膳立てが整ったところで、真ん中付近に甘く入ったストレートをライトスタンドに叩き込む。

この逆転満塁ホームランが決勝点となり、高川健選手が2018シーズンに続けて勝利を収めた。

高川健選手が勝利者インタビューで「(倉前選手とは)公私ともに仲良くさせていただいている」と語ったように、倉前選手と高川健選手は、パワプロファン界隈で2人のプレイヤーネームを組み合わせた「カイころ」の愛称で親しまれている。
※高川健選手は一部から「悪魔」と呼ばれ親しまれているが、ここでは割愛。

生まれも年齢も違う二人だが、プレイスタイルと信念は驚くほど合致する。盗塁やバントといった小技を極力使わず、強振でホームランを狙っていくスタイル。以前に二人へ話を伺った際には、「ゲームに求めるものは爽快感」と声を合わせた。

二人が出会ったのは、『実況パワフルプロ野球2016』のオンライン対戦。発売日の直後にマッチングしたのを互いに記憶している。当時はオンラインの人口も少なく、深夜に潜るとマッチングする相手は決まっていたという。

初めは名も知らぬ相手だったが、何度も対戦するうちに互いを認識するようになった。倉前選手は当時の高川健選手を振り返り「IDをメモして、要注意人物と認識していました(笑)」と話す。

対戦方式は、サクセスモードで育てた選手を用いるアレンジモード。お互いに「ころころ専用」「カイ専用」という名前の選手まで作り対戦する仲となった。

そんな二人が初めて顔を合わせたのは、2017年の福岡大会。直接対決こそ実現しなかったが、顔と名前を一致させて以降はTwitterを中心に交流を続ける。

二人のツイートには時折「彼氏・彼女」というワードが出てくるが、これは「カイころ」で遊んでいるときを指す。カップルで賑わう有名ケーキ店に二人で入店した喜劇(悲劇?)などがアップされている。

念願の公式戦での対決が実現したのは、「eBASEBALL プロリーグ」初年度となる2018シーズンの第5節。このときも倉前選手が先制点で流れを掴んだものの、高川健選手は2本の3ランなどの猛攻で逆転。結果的に2対9の大差で、高川健選手が勝利をもぎとっている。

奇しくも今回の対戦は、一昨年の対決をなぞるような展開となったわけだが、大きく異なる点がある。ピッチング技術の向上だ。

ナイスピッチ率をみると、前回は倉前選手38.2%、高川健選手44.2%とプロのなかでは低い水準だった。対して今回は、倉前選手55.4%、高川健選手63.1%と大きく向上した。

実は2018シーズン当時、「倉前選手=失投」とプレイヤー間で認識さていた。高川健選手はその様子を「カイさんだけ一球は真ん中に失投しなきゃいけないルールでもあるのかなと思いました(笑)」と語るほど。

倉前選手本人も「ピッチングは苦手。隠しようがないです。一生懸命やってるのに、どうしても……」と吐露していた。

バッティングを売りにしてきた両選手。ピッチング練習に費やす時間は「爽快感」と縁遠い時間だっただろう。それを支えたのは、「eBASEBALL プロリーグ」創設時から戦い続ける彼らだからこそのプロ意識ではないだろうか。

ナイスピッチ率の大幅な向上から透けて見える、研鑽の日々。プロプレイヤーの多くは兼業で、普段は学業や仕事に勤しむ。多忙の合間を縫い、黙々と60分の1秒(※)の感覚を磨く……気が遠くなるような話だ。
※「ナイスピッチ」を出すには、60分の1秒のベストタイミングで投球ボタンを押す必要がある。

失投に苦笑いを浮かべ、周りを爆笑の渦に巻き込む倉前選手はもういなかった。

まあこんなことを書くと、次の試合あたりでまた「挨拶代わりの失投」をぶちかますかもしれないが(笑)。

夜な夜なオンラインでマッチングし競い続けた二人の物語は、プロ野球12球団の看板を背負う最高の舞台で続いている。読者諸賢には、ぜひ彼らのストーリーにも注目したうえで観戦してほしい。

今シーズンの強振のすべて 舘野選手メールインタビュー

筆者は2018シーズンから「eBASEBALL プロリーグ」の読売ジャイアンツに密着し、選手たちの生の声をお届けしてきた。今シーズンは新型コロナウイルス感染症の拡大状況を鑑み、メールインタビューを実施。チームを代表して、キャプテンの舘野弘樹選手へお話を伺った

強振100%の男はいま「ミート打ち強化・強振弱体化」の逆風のなかで、必死に抗っている。

ーーミート打ちの強化と強振の弱体化……舘野選手からすると「逆境」といえる環境なのでは?

正直きびしいです。強振は芯とタイミングを合わせてようやくヒットになりますが、ミート打ちは少しタイミングや芯からずれてもヒットになる。ミート打ちのほうが圧倒的に強い環境です。

ーー『eBASEBALLパワフルプロ野球2020』発売から半年近く経ちますが、まだ明確な打開策は見えていない?

半年でもまだ対応するには短いと感じますね。いまだにストライクゾーンからボールに外れる変化球の対応には慣れません。これまでの感覚でプレイしてしまうんですよね。

ーー全く別のゲームをプレイするのであれば、一から学ぶことができる。しかしパワプロは今までの経験と慣れがあるからこそ、ちょっとした変化への対応が難しい。

その通りですね。画面や操作方法が変わっていないからこそ、長くプレイしてきて染み付いている操作をしてしまいます。

ーー舘野選手は、強振では対応が難しい場面でも「強振でミート打ちをする」といった独自のプレイ方法を模索し、強振100%を貫いてきました。

昔から親交のあるプレイヤーからは、よく「それならミート打ちでよくないですか」と言われます(笑)。でも、それじゃだめなんです。

ーー「ミート打ち最強」の現環境でも、ミート打ちは使わない?

そうですね。ないっすね。

ーー舘野選手は強振であえて芯を外し、特定のポイントに当てることで飛距離を伸ばすという独自の打撃理論を構築されていました。今シーズンはそれもうまくいかない?

確かに、前作まではその方法でホームランを狙うことができました。今シーズンは芯以外に当たると、とにかく打球が飛ばないように調整されてしまっていて……。

ーー舘野選手は以前「ミートカーソルは小さいほどいい」と話され、「ミートは低いが、パワーは高い選手」を好んでいました。今シーズンは強振時のミートカーソルがより小さくなるよう変更されたそうですが、影響はありますか。

中心の芯に当てることには変わりないので、ミートカーソルが小さい方がより集中してバッティングができるというのは今も変わりません。

ただ、今シーズンはミートカーソルとともに芯まで小さくなっています。当たり判定がよりシビアになったので、影響は大きいです。

ーー開幕戦では、ミートGのモタ選手でセンター前ヒットを放ちました。

あの場面のモタ選手は「三振」の特殊能力が発動していたので、ミートは最低値の1しかなかったと思います。あとで配信を確認したら、強振時ではほとんどミートカーソルが見えませんでしたね(笑)。

ーー逆境下ではありますが、ご自身では状態をどのように捉えられていますか。

調子自体はすごくいいです。練習では、いつもチームメイトを破壊できています!

ーー最後に、今後の試合に向けて意気込みをお願いします。

プロ3年目で初めての黒星スタートとなってしまいましたが、シーズンは長いのでしっかりと気持ちを切り替えて、最後まで戦っていきます!

「eBASEBALL プロリーグ」について詳しくは、公式サイトをチェック!