「本当にお前さんたちはね……強いサムライになった!」

e日本シリーズで読売ジャイアンツが日本一を決めた瞬間、原辰徳監督がWBCのシャンパンファイトで放った名言を思い出した。

昨シーズンのeドラフト会議から読売ジャイアンツを追いかけ続けたどり着いた、待望の光景。戦力比的にはマリーンズ有利との声もあるなか、強さを感じる勝利だった。

第2回eBASEBALLプロリーグの頂点に立った、読売ジャイアンツ。

プロ野球での日本シリーズ4連敗の雪辱は、eBASEBALLで晴らす。開幕前から選手たちが掲げていた強い思いは、見事に2連勝というかたちで結実した。

原監督は昨年の日本シリーズの記憶をなくしてしまったようだが、e日本シリーズの記憶はしっかりと留めておいてほしいものだ。

ということで、ここからはe日本シリーズの模様をレポート……しない。公式レポートや試合動画のアーカイブもあるのに、試合経過などを書いても面白くない。

拙稿では、何がe日本シリーズの勝敗を分けたのかを舘野弘樹(てぃーの)選手へのインタビューを交えつつ、解説していきたいと思う。

2シーズン連続eクライマックスシリーズ進出という経験値


eBASEBALLにおいて、最も大切なこと。選手たちは口を揃えて「メンタル」という。

実際にプレイすればわかるのだが、パワプロではあまりにもシビアなコントローラーさばきが求められる。わずかでも力めば、カーソルがずれる。そのわずかなズレがバッティングでは凡打につながり、ピッチングでは失投ととなる。精神的な乱れは指先の動きが乱れに繋がり、勝敗に直結してしまうのだ。

筆者はそのメンタルの面で、試合前からジャイアンツ有利と睨んでいた。その根拠が、12球団唯一の「2シーズン連続クライマックスシリーズ進出」という経験値だ。

これは単なる「場慣れ」の話ではなく、昨シーズンからポストシーズンが「3イニング交代の9イニング制」で実施されていることに依る。実は昨シーズンもこのルールについて選手たちに聞いてまわっているのだが、ほとんどの選手が「やりにくい」と答えている。

実際に選手のなかには、「ナイスピッチが出なくなる」という具体的な変化が表れるものもいる。

それも当然で、eBASEBALL以前のパワプロの大会でも、このようなルールで実施されたことは過去に一度もない。すべての選手にとって、未知の試合方式なのだ。

その点で、昨シーズンから読売ジャイアンツでプレイする舘野選手選手、吉田友樹(たいじ)選手、高川 健(ころころ)選手の3名は、最も「3イニング交代の9イニング制」を経験している選手といえる。

チームを代表して舘野選手にこの「経験値」について伺うと、やはり肯定的な答えが返ってきた。

「おそらく生きましたね。やはりシーズン中とは何もかもが違うので。2シーズン連続でeクライマックスシリーズに進出できたのは自分たちだけだったので、アドバンテージになったかなと思います」

キャッチャー・バルガスは想定されていた

昨シーズンからeBASEBALLでは、選手の機転によって想定外の采配が振るわれる。

そのなかでも最たる例といえるのが、高田和博(TKD)選手が東京ヤクルトスワローズ代表時に発明した「ファースト・バレンティン」だ。

選手にはそれぞれ守備適性が割り振られており、適性がないポジションにつくとエラー率が大幅に上昇する。通常であれば適性がないポジションで起用することなど無いわけだが、適性がなくとも守備につかせることはできる。

これを逆手に取り、打球処理の機会が少ないファーストに守備適性のない強打者を起用する……これが「ファースト・バレンティン」だ。そして、その亜種といえるのが、千葉ロッテマリーンズがみせた「キャッチャー・バルガス」。

実況・解説席でも盛り上がりを見せたこの起用。e日本シリーズの舞台で……しかも1戦目を落とし、ビハインドの状態で迎えた終盤戦で、まさかの采配だった。

この采配を舘野選手に振り返ってもらったところ、冷静な答えが返ってきた。

「前々からあんちもん(町田和隆)選手がやっていたので、事前にもしかするとやってくるかもねという話はしていました。ただ、本当にやってくるとは思わなかったので、驚きましたけどね」

ジャイアンツの面々は、ファンの前などでは「脳筋なんで」「来た球を打てばいいんすよ」とおどけてみせるが、事前の想定や考察は徹底している。全く想定していないのと、想定したうえで「やってくるとは思わなかった」では、動揺の度合いが全く異なる。

結果、捨て身の覚悟で臨んだ下山祐躍(スンスケ)選手の攻撃を同点止まりで凌いだのは、動揺を見せなかった吉田選手の真骨頂だったといえるだろう。

たった1度のミート打ちで何が変わったのか

舘野選手のミート打ち。パワプロ界では信じられない革命的な出来事だ。他のプロ選手でさえ、直前まで半信半疑だったという人もいるくらいのプレイだった。けれど筆者は、間違いなくやると思っていた。

今だから言えるのだが、無職であることも包み隠さず話す舘野選手が、開幕前のインタビューでひとつだけ「オフレコにしてほしい」と言ったことがある。

守備シフトの「長打警戒」についてだ。

その理由が、一目瞭然でわかる試合がある。シーズン中で唯一黒星を喫した、セ・パe交流戦前節の高川悠(スーム)選手(オリックス・バファローズ代表)との一戦だ。

この試合、舘野選手の長打はことごとくフェンスの前で失速し、高川悠選手の好守によってアウトカウントが灯り続けた。クラウンスタジアムでは「弾道4」と一定以上のパワーがなければ、ホームランを打つのが難しい。例えば、丸佳浩選手の能力をもってしても、クラウンスタジアムでホームランを打つのは至難の業なのだ。

舘野選手はインタビュー時、こんなふうに話していた。

「クラウンスタジアムでなら、自分を抑えるのは簡単ですよ。長打警戒にしてアウトローにストレートを投げ続ければ、強振じゃ打てないですから」

舘野選手はシーズン中も不可能と思われることを可能にしてきた。とくに「巨人キラー」をもつ平松政次氏のカミソリシュートを確定ホームランにするのは、他のプロ選手に「人間業じゃない」と言わせるほどの偉業だ。

そんな舘野選手も、高川悠選手の前に完封を喫している。クラウンスタジアムで強振一本で戦うのは、それほど難しい「しばりプレイ」というわけだ。

だが、e日本シリーズのなかでも舘野選手のミート打ちは、一度きりである。なぜ、たった一回のミート打ちで状況が変わるのか。

その答えを知るには、野球における「配球の考え方」が参考になる。

先発投手が100球を投じたとして、その内訳を紐解くとたった数回しか投げていない球種というものがある。配球には「見せ球」という、その次に投げる球の効果を上げるために使う「囮のような投球」があり、このたった数回が時として相手バッターを苦しめる。たった一度見ただけでも、相手バッターはその球を選択肢に含めなければならないからだ。

「ストレートが来るに決まっている」と思っていても、どこかで変化球が脳裏によぎる。そんな可能性が、中途半端なバッティングにつながるのだ。

野球に精通していない人にもわかりやすい例を挙げるなら、試験前の授業で「この問題、試験に出すかも」と言われたと想像してみてほしい。

それを聞いたあなたは、本当に試験に出るかはわからないけれど、その問題を解けるようにするだろう。ただし、その問題が解けるようになるまで時間がかかり、代わりに英単語を覚える時間を少し減らさなければならない。往々にして、何かをできるようにするには、何かを諦めなければならない。

今回の場合でいえば、舘野選手がミート打ちをする可能性があるだけで、長打警戒でアウトローへ投げ続けるという選択肢が取れなくなる。ミート打ちで内野の頭を越す打球を打てば、簡単にヒットになるからだ。

そうなれば当然、他のコースにも投げなければいけないし、外野も中間守備にせざる得ない。

そして、これこそが舘野選手の狙う状況だ。「長打警戒のアウトロー攻め」でなければ、心置きなく「強振」で仕留めることができる。たった一本のミート打ちが、相手の戦法を根本から変えしまったというわけだ。

けれどこれは、舘野選手の積み上げてきたものがあるからこそ、実現できる戦法だ。全パワプロプレイヤーが諦めた「強振100%」という道を、たった一人で歩き続けたからこそできること。

ここからは筆者の想像なのだが、そんなアイデンティティとも言える「強振」を諦めたのはチームのためだったと思う。もし仮にeBASEBALLが「個人戦」であったのなら、舘野選手はミート打ちをしなかったのではないだろうか。読売ジャイアンツを愛しているからこそ、4人で日本一になりたいからこそ、信念を曲げてミート打ちをした。そんな気がしてならない。

「お前の考察なんかいいから、もっと選手の声を聞かせろや」という読者も多いと思う。

安心してほしい。e日本シリーズ終了直後、読売ジャイアンツの選手たちに単独インタビューを実施した。

その模様は、前後編の大ボリュームで近日公開予定だ。

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