MOV選手
撮影・長澤紘斗
MOV
Team GRAPHT所属。『ストリートファイターⅢ3rdSTRIKE』で圧倒的な実績を残し、現在は『ストリートファイターV』をメインに活躍する。twitter:@movmovmov

格闘ゲーマーとして目指すものとは

ーーそこから「ストⅤ」には、気持ち的にすんなり切り替えられました?

MOV:まず「ストⅤ」が流行るかどうか分からないじゃないですか。そこで「ストⅤ」が発売される前に、「とき〇荘」でこのゲームを本気で取り組むのかっていう全員会議が行われまして。

その時に金デヴさんが率先して「どんなにつまらなくても俺は歯を食いしばってやるよ」って言ってくれたので、全員がやろうってなったんです。

蓋を開けてみたら「ストⅤ」 は想像していなかったぐらい面白くて、それからは毎日活気に溢れる「とき〇荘」になりましたね。

ーーシーズン1の春麗は最強候補にあがるくらい強かったですよね。もともと春麗を使おうとは思っていたんですか?

MOV:「ストⅣ」に比べると「ストⅤ」の春麗って「3rd」に似せて作ってあるので、これなら使ってもいいんじゃないかというのはあったんです。

ただ「ストⅤ」は、どんなにつまらなくてもやるっていうのが当初の目的だったので、春麗より強いキャラがいるならそっちを使うって気持ちでしたね。なのでかなり慎重に使用キャラを考えていたら、3週間経っていました。

もうその頃には、ときどやハイタニ君がすごく強くて、追いつけるのかと焦ったりもしたんですけど。

しかもその時期って春麗がまだ最強キャラっていう扱いではなくて、リュウやケンには辛そうに見えたので、ときどに不利なキャラを使ってもいいのかなとか考えたりして。

そういう相談をいろいろな人にしていたら、ハイタニ君が「3rd」で春麗をあれだけ使っていて、それに似た性能になっているんだし、似合っているとかそういうのって大事だと思いますよと言ってくれて。それで見切りスタートをした感じです。

ーー実際、やり込んでいく過程で、戦っていけるっていう手応えを感じたのは?

MOV:リリースされたのが2月18日、春麗に決まったのがもう3月。ようやく追いついたぞっていう手応えが出てきたのは、5月の後半辺りですね。

なので3ヵ月近くかかっているのかな。一応、理屈でもリュウ、ケンに5分くらいの戦略がたったのが。

ーーその後シーズン2に移行して、弱体化を受けてしまうわけですが。

MOV:シーズン1にあれだけいた春麗が、ほぼ絶滅しましたからね。ただ、今考えると、結構弱体化はしたんですが、シーズン1よりもシーズン2の方が出来ることは増えていたんだなと。

ー一新しい要素もあったんですね。

MOV:増えていて、面白くはなっていたんだなと。強い弱いでいったら、ちょっと弱くし過ぎなんですけど。結局シーズン2の春麗を続けたのも、春麗だけの面白味があったからなんだなと。

あと、先ほどプロになろうと思ったのは「ウルⅣ」の時かっていう質間があったと思うんですけど、「ストⅤ」を始めた時点でも別にプロになろうとは思っていなくて。

プロっていうのは「eスポーツ」って言葉を認知させるための広告塔みたいな役割を担うことが多いと思うんですが、そういうのは大変だろうし、ときどみたいなのがやればいいなと思っていたので。

僕はゲームが上手くなることには興味あるけど、それ以外はダメな大人だから、窓口に立ってキラキラした目で見られるのに相応しくない(笑)。

ーーとはいえ現在MOVさんはプロとして活動されているわけですよね。

MOV:同じ業界なので、以前から「Team GRAPHT」としてサポートしているMSYさんとは交流があったんですけど、「ストⅤ」の1年目が終わった時に、広告塔みたいなプロじゃなくて、あくまで僕の格ゲー活動をサポートしてあげたい、というお話をいただきまして。

お陰さまで益々自分のゲーム活動だけやってればいいんだという環境に。ただ「Team GRAPHT」さんにサポート頂いて2年目になるのに、去年より勝たないのはちょっとっていうのはありますけど。

ーーこれまでの大会の結果についてはどう考えていますか。

MOV:昨年の大会はラシードに負け続けたんです。マゴさんは「MOVはラシードアレルギーだから」って適当なこと言ってるんですけど、実は全然そんなことなくて、春麗のやり込みをー番がぶつけられるのがラシードだったんですよ。

春麗は死に技が少ないし、足も早いし、おまけに火力も低いので、いろいろやらなきゃいけない戦略の幅が必要なキャラなんです。

その戦略の中から、相手キャラによって使う部分を選んで出していくんですが、ラシードは培った全部をぶつけないと勝てない。だからラシード戦は好きだったんですよ。前よりも成長して、今度こそ倒すって思いながらやり続けていました。

ラシードが弱くなる前の最後のバージョンで行われた大会で倒すことができて、それが今生の別れになっちゃったんですけど(笑)。

ーー初めは勝てるキャラを探して春麗に行き着いたということですが、弱体化を受けたシーズン2、3でも使い続けた理由は?

MOV:シーズン1では自分が1番春麗を使いこなせていたと思っているので、その経験を生かしてやり繰りした方がいいのかなと思ったのがひとつで。

もうひとつは、春麗をあきらめてキャラを替えようと考えている時に、Justin Wongに何を使えばいいと思うか相談したんですよ。Justin Wongのゲームを見る目はすごいと信用していたので。

そうしたら「春麗は本当はもっと強いから使え」と言われて。自分としてはキャラを替える気持ちでいたので、そんなのはいいから次に使うキャラを教えてくれと言ったら、真剣な顔で「春麗はまだ使いこなせてないだけだよ、本当に強いからちゃんとやれ」と返ってきて。本当に春麗を諦めたタイミングだったんですが、Justin Wongが言うんならきっとまだ何か頑張りようがあるんだろうと思って続けることにしました。

ー一改めて春麗を使うことにして。

MOV:シーズン1からシーズン2っていうのは、変更に合わせて使っていた技を置き換えてやっていたんですね。

その作業は完了していて、もう春麗で練習する要素は無いと思っていたんですけど、それだとシーズン1からただ弱くなっただけの春麗でしかなくて。

でもJustin Wongがそこまで言うならと戦略の練り直しに1から取り組んだら、これまでと全然違うものが出来上がったんですよ。その過程も充実していたし。

ーー自分でも納得出来る仕上がりになったと。

MOV:結局間に合わなかったんですけど。ただもうARCADE EDITIONになって、それでも春麗が強くなっていなくて、今度こそ絶対にキャラを変えようってなったんですけど。

ただキャラを替える候補たちがアビゲイルとかガイルとかあまりに強力過ぎたので、今更それで勝って何がしたいのっていうのもあって。なので今、本当にどうしたらいいか分からないんですよ。

格ゲーマーMOVを応援してくれている人は、負け続ける姿を見たくないだろうし、自分も応援している人が負けてしまうと寂しいので。ただ思うのは、シーズン1でもシーズン2でも、もう1年やれていたらっていう。

ーー今は頻繁にキャラクター調整が入って、ゲームバランスが大きく変わっていきますが、それについては?

MOV:適応しようと思えば出来るんですけど、春麗を続けたいなっていう欲がどんどん突き上げてくるのが難しいですよね。

もう少し上手くやれば面白くなるかもしれないっていうところで、悪く言えばいつまでも踏ん切りがつかない。やりたいなっていう気持ちを大事にしたいのがあって。だからといって、勝つためにアビゲイルを使えば、俺優勝できるしって言ってるわけじゃないんですけど。

例えば優勝賞金が2000万円だから今年はアビゲイルを使うっていうのは、時給と期待値にするとコンビニバイトをしていた方がいいかもしれないくらいじゃないかなと(笑)。

同じことを考える人が10人いたら1人しかできないわけだから。しかもそれで勝たせてくれるほど、周りのライバルは甘くないじゃないですか。せっかく今の時代、中学生の時にテレビで見たウメハラさんとか、高校生になる前から一緒にやっていたときどとかが、最前線で活躍してくれているわけで。

ーー時を超えて、また同じ舞台にあがっている感じですもんね。

MOV:せっかくいてくれる偉大なライバルに何をぶつけたいかっていうと、自分が一番やった魂のキャラな訳じゃないですか。勝つために他の強いキャラを使っていたとしても、ウメハラさんとの大事な試合になったら春麗を出したいし。

その時に他のキャラをやっていたせいで春麗が下手になっていたら、あまりに本末転倒なので。それなら春麗でいいんじゃないかって。

ーー今、現状出した答えっていうのは、そういことっていう。

MOV:春麗が単純にきついなって相手には・・・・・・例えばザンギエフとかには他のキャラを出して倒すかもしれないですけど。「ザンギエフ使いとか知らんし、まして魂とか通じ合わんし」って。でもウメハラさんとかには、自分の中で最高のものしかぶつけるつもりがないと気づいたので。

ーー何のためにゲームをやっているのかってことですね。

MOV:勝って賞金を稼いでとかそういうのであれば、効率よく勝てる方に行くわけですよね。自分はウメハラさんですとか、思い入れがあるプレイヤーと対戦するっていうことが一番価値のあることなので。

それはあくまで自分本位なんですよね。ラシードが弱くなってしまったのが寂しいっていうのも、自分の中で今一番の春麗を全部出せるキャラだったからっていう。ウメハラさんとかときども、ぶつけがいがあるわけじゃないですか。自分の実力が全部出せるから好きっていう。

ーーそれでは最後に、今後の活動の中で大事にしていきたいものっていうのは何がありますか?

MOV:いいものを残したいですね。それだと思う。「3rd」って青春の7割ぐらいを懸けてやってきたゲームなのに、あの日の、あの試合は満足っていうのは数えるくらいしかないし、しかもそれって映像に残っていないんですよ。なのでもっと録っておけばよかったなと。

映像に残すのが目的ではないんですけど、自分が目指すものに向かっていって、この先いつか見たときに、これは満足いく試合なんですよっていうのが残せるといいなと思っています。

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