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チームのアイデンティティとは?
ふり〜だ:あと、Aerowolfの試合を見ていて、やはりAPACとNAの相性は良くないなと感じましたね。
ーー戦い方の相性でしょうか?
ふり〜だ:そうです。NAのチームは例えるなら教科書なんですよ。綺麗なくらいにシステマチックで、撃ち合いはしないといけない状況まで極力しない。APACは良い意味でシージのゲーム性を否定した戦い方ができるので、防衛なら本来は屋内で戦うところでもバンバン外に出ていくなど、自分たちが使えるフィールドを最大限に使って戦えます。
ちなみにAPACをもっとラフにした感じの戦い方がラテンアメリカ(LATAM)地域です。あまり情報には頼らず、とにかく撃ち合いに挑んでくる。EUはフレキシブル。NaViを筆頭に、どこを囲いに行くのか、どこで勝負するのか、相手の動きを見て柔軟に変えるパターンが多いです。なので、柔軟に動くための準備として、情報収集をしている時間が必ずあります。
特に今大会に出場した各地域1位のチーム(NaVi、Aerowolf、DarkZero、Ninjas in Pyjamas)は地域の特色をよく表していて、どちらかと言うと2位通過のチーム(Team Reciprocity、Wildcard、Giants、FaZe)はくせ者揃い。FaZeも、ラテン特有の撃ち合いとEUのような情報能力を持ち合わせたハイブリット型です。
最近はこうした特色が顕著で、地域ごとの相性が出始めていますね。どの地域が弱いとかではなくて「戦術の相性」です。ですから、今後も世界戦で安定して勝ち切るには、そこに気づいて被せられる戦術を作っていく必要があります。
AerowolfとDarkZeroの試合のように、APACとNAは現状ものすごく相性が悪いです。DarkZeroのようにガジェットやマップ構造に対して最適で、自分たちがいかに体を出さずに戦うかを研究し尽くしているチームには、積極的にマップピックやオペレータBANを駆使して、相手の想定を上回る戦術を取り入れないと、大半の日本のチームが勝つことは難しいでしょう。
ともぞう:AerowolfもAPAC的な戦い方ですが、彼らが何よりもすごいのは“Aerowolfらしい”戦い方を貫いてきたからだと思うんです。
彼らがやろうとしている東南アジアらしいハードに撃ち合うスタイルは、僕がキャスターになってからのこの1年間もずっと変わっていません。同じメンバーでずっと初志貫徹でやってきて、APACファイナルで何度も敗れながら、自分たちのストロングポイントを高めてきたこその結果なんです。
先日のAPACファイナルは記憶に新しい方も多いと思いますが、野良連合と戦った準決勝でもドローンの差し込み方や回し方などの細かい情報収拾が圧巻で、野良連合は何もさせてもらえませんでした。特に国境では、Aerowolfがハードブリーチャーなしで、補強壁を割るというゲーム性を否定して戦うほど、相手を捕まえてそこを潰しに行く戦術のクオリティが圧倒的に強かった。
あのAerowolfの姿を見ていて、強さとは別に、大事なのは“チームのアイデンティティ”だと思ったんです。
「強いチームを真似しました」では、永遠にそのチームを超えられません。Aerowolfは彼らなりの個性を突き詰めたから、EU地域のGiantsにも良い勝負をして勝った。世界に対してどんなカードを切って勝負するのかという点で、Aerowolfはひとつの指針を示してくれたように思いますし、APACの仲間としても誇らしく感じます。
「そこでしゃがめるの!?」neLoの1vs4クラッチを徹底解説
ーーでは、大会を通してのベストプレイをひとつ教えてください。
ふり〜だ:素晴らしいシーンがたくさんありましたけど、僕が選ぶならNaVi対Wildcard Gamingの2ndマップ、ラウンド2でneLo選手が魅せた1vs4クラッチですね。あのシーンがもう。
ともぞう:僕もそこですね!neLo選手のプレイの精度が高かった。
ふり〜だ:一見すると華やかなプレイに見えるんですが、ビリヤード裏のカウンター方向を抜く瞬間の、しゃがむタイミングが絶妙なんですよ。
NELOOOOOOOOO! 😱😱😱😱😱@neLo_qq #R6PL pic.twitter.com/Lmy93h9qGW
— ESL Rainbow Six (@ESLRainbowSix) November 9, 2019
▲neLo選手1vs4クラッチのシーン
ともぞう:まずはファーストキル。neLo選手の正面にある弾痕に、瞬間的にチラッと見えたところを撃ち抜いています。
ふり〜だ:そしてこの時点ですでに、フッカー階段前とビリヤード裏からほぼ180度クロスを敷かれています。Wildcardとしては理想的なクロスですね。
ただ、敵の位置もボム位置も同じ方向なので、いずれにせよ中に入らないといけない状況です。ここでneLo選手が導き出した解答が、射線の通らないこの壁(下図の赤丸)を利用する方法です。
残り3人、まずは左からカットするという判断で、壁沿いに進んでいくのですが、前進しつつ射線が通らない部分で一瞬しゃがむんですよ。
ふり〜だ:シージはピークアドバンテージ(飛び出し有利)があるので、しゃがんだまま進行すると撃ち負ける可能性が大きい。「ここに居る!」って瞬時に把握して、しゃがんで、ピークして、抜いたのが2キル目ですね。
ともぞう:逆に右側の3人目は、この射線で撃ってくるとわかっていての決め撃ちですよね。neLo選手はこの数秒で、瞬時に射線管理と動きの判断をしているんです。
ふり〜だ:瞬間的にこうしたプレイができないと世界ではクラッチを決められないですよ、という象徴的なプレイですよね。
今の日本の競技シーンだと、あの場面でしゃがむアクションができるプレイヤーは、中々いないのではないでしょうか。おそらくラッキーパンチを期待して、やみくもに前進して決め撃ち……。
neLo選手のこのシーンは、しゃがむ動作ひとつで360度をケアしていることがわかります。そういう細かな技の積み重ねがNaViのプレイには表れていましたね。
ともぞう:ぜひ動画を見返して、プレイが早すぎると感じた方は動画の再生速度を落として見てもらうと、このしゃがむタイミングの上手さがよりわかりやすいと思います。
ともぞう:さらに付け加えると、このクラッチはNaViがこの大会を勝ち上がる分岐点でもあったのかなと思うんです。
NaViのエースといえばCTZN選手なんですが、正直この試合はあまり奮っておらず、試合の雰囲気も相手に飲まれてしまうかもしれない状況で。そんな中でのビックプレイだったので、neLo選手がチームを救い、チームが波に乗るきっかけを作ったんです。neLo選手が影のMVPと言っても過言ではないくらいのベストシーンでしたね。
ふり〜だ:やはりメンタル面が密接に影響してますよね。こういうビックプレイを決められた瞬間にダメになるチームと、やられたことでさらに火がついてイーブンに持っていくときと、見ていてわかりますからね。
2月には再びSix Invitatinal、注目のチームは?
ーー最後に、今後の世界大会での注目チームとそのポイントをお聞かせいただけますか?
ふり〜だ:僕は以前から推しているFaZe Clanですね。コアなプレイヤーの方は気づいているかもしれませんが、どの大会でも「えっ!そこ通るの?」っていう技を披露してくるんですよ。それも一発モノではなく、実現性の高いもの。彼らのマップに対する向き合い方は、世界でも頭ひとつ抜けている部分だなと思います。
ただ、グループステージ予選があるSix MajorやSix Invitatinalでは、事前のリサーチ力やその精度も試されます。予選は事前に相手が決まっているので、徹底的にリサーチをして、執拗に相手が嫌がることばかりやってくるんです。この前のSix Majorで言うとG2とか、Empireのように。
ですから、自分たちのトレンドカラー+αで何かしらを持っていて、さらに相手に応じて戦い方を変えられるチームが、今後の世界大会で勝ち上がってくるだろうと思いますね。
ともぞう:次の世界大会2020年2月のSix Invitatinalでは、やはりG2・Empireの復権がどうなるかが気になりますね。
完全にキャスター目線での考え方ですが、サッカーのように成功するコンテンツはヒエラルキーがしっかりしているんです。「強豪チーム」「中堅チーム」「残留争いをするチーム」とある程度決まっていると、初めての人でも見やすいですし、強豪チームに新しい選手が入ればわかりやすく盛り上がれます。
結果的に戦国時代になった今大会のような動きも大事なんですが、チームが入れ替わり続けるとついていけなくなる人も出てくるはずなので……。もう一度、“王者G2”と“バトルマシーンEmpire”がドーンと出てきてくれたらと。
G2のPengu選手も長くやっているプレイヤーなので、とあるインタビューではモチベーションの低下についても話していましたが、やはりいてもらわないといけないですし、その絶対王者を倒すチームが日本のチームであってほしいんです。シージのヒエラルキーは、まだ日本が上位に食い込む余地がありますから。
Six Invitaional 2020
2019年度の集大成とも言える大規模世界大会。王者G2やTeam Empire、野良連合やCAGなどの日本チームの出場も期待されます。
日程:2020年 2月7日(金)〜2月16日(日)
場所:カナダ・モントリオール